小銭臭い愛の話
好きなだけじゃあどうにもならない。
応援してるだけじゃあ何も変えられない。
見ているだけじゃ9割のことは知れないし、言葉の真意も宛先もきっと100%は理解出来ない。
身体も心も果たして本当に元気?
お休みの日が多いみたいだけどお仕事はどう?
髪型が変わったの嬉しいな、なんのため?
一生面と向かって話す日は来ない。
でも今日も明日も毎日毎日思ってる。
1日の何パーセント君のことを考えているだろう。
アイドルを好きになるのって、ドラマチックでハッピーでそのくせビックリするほど生活感に染まりきったありふれた習慣になっていく。
この曜日のこの時間はテレビ、ラジオ。
この日は雑誌にCD。
当たり前のつまらない、くたびれ果てた毎日に1箇所だけ光るキラキラのシールみたいなときめきがある。
当たり前になっていく好きが毎日に彩りを加えて、変哲も無い日々に煌めきを与えてくれる。
一生話すことも無い。
一生目に映らないし、名前だって呼ばれない。
私が居たって居なくたって彼の人生は変わらないし、彼の人生のターニングポイントに私はなんの決定権もない。
決まったそれを、ぽん、と投げ渡されて持て余して取り零して泣いて笑って一生懸命探して行く。
好きな人の大事なものが形を変える時。
好きな人の大事な人が身体を壊していた時。
好きな人の大事なものがまた、大きく形を変えた時。
好きな人が何を思ったのか、私はきっと死ぬまで、死んでも、全部は知れない。
私の好きな人はきっと気持ちの全部を語らない。
だから笑顔と一緒に投げられた曖昧であやふやなニュアンスを必死に読み解こうとして躍起になって、でも私は他人だから全部はわからない。
愛してるだけじゃ何にもなれない。
愛してるからって守れないし、愛してるからって望みを叶えてあげることも出来ない。
無力感でいっぱいで、泣きながら見つめた画面の先でも彼はキラキラと笑ってる。
悲しくてもムカついても苦しくても彼はきっと気持ちの全部を語らないまま、ちゃんと彼の決めたアイドルをする。
私が大好きな、日々の煌めきのまま。
彼は笑ってる。私が大好きな笑顔のまま。
愛は無力で、愛は苦くて、愛はしょっぱい。
好きな人を幸せに出来ないのに、浴びるように私は幸せで。
買ったCD、買った雑誌、買ったDVD、それが彼に繋がればいいな。
血と成り肉と成り、なんてわがままは言わないから、彼が気まぐれに買ったジュース1本の100円玉が私の苦い愛の結果だといいな。
可愛いあの子も泣いていないと良いな。
可愛くって応援したいと思った。
ずっと立ち続けた舞台に立てないのはどんな気持ちだろう。
お金が全てじゃないけれど、お金でどうにかできる愛があるなら、お金でどうにかできる笑顔があるなら、私はお金を使うんだろうな。
愛してるけどどうにも出来ないことを痛いくらいに知ったから、どうにかできることがあるなら死ぬ気でどうにかしてあげたいと思うのだ。
CDを買ったって、Twitterで呟いたって繋ぎ止められないものを知っている。
それで泣いてる大好きな人を見た事がある。
愛は無力でオタクは他人で世界はシビアで人間は自由だって痛感した夜がある。
だから、もう、後悔したくないなと思う。
お金の金属臭い愛は綺麗じゃないだろうか。
億万長者じゃないからビックリするほどは使ってあげられないだろうけど、毎日働いて、揺れるビルの灯りに疲れた目を閉じたくなる夜の分、彼らから見たら笑っちゃうような端金かもしれない。
小銭臭い、しょうもないお金かもしれない。
愛を語るには所帯染みた貧乏臭いはなしだけど、1枚のCDが回り回っていつか彼らの笑顔になればいいなと思う。
出会ったばかりだけど、私は笑ってるあの子が好きだし華奢な背中で背負ったプレッシャーを美しいと思った。
愛は残酷で身勝手で必死だ。
何者にもなれないオタクはみっともなく足掻いて、血反吐を吐いて、這いずり回ってスポットライトを浴びて笑う彼やあの子が大好き。
ドラマチックな世界なんか知らない、生ぬるい世界をふわふわ生きてる私は、苛烈で眩い人生を必死に必死に駆けていく彼やあの子を見ていると涙が出そうになる。
幸せでいて欲しい。
頑張りすぎないで欲しい。
でも、熱すぎるスポットライトの下、険し過ぎるスターダムの途中、流した涙と汗だって眩しくて愛してるから。
どんな姿も私は涙が出るほど愛しちゃう気がする。
愛の名のもとにわがままを振りかざしてごめん。
代わりと言ってはなんだけど私も頑張っていこうと思うんだ。
可愛いあの子が眩しい特別な舞台でもう1度笑える日まで。
大好きな彼が揺るぎない居場所で愛した仲間といられるように。
私はまた無力でちっぽけな愛に鞭打たれて働こう。
どうにも出来ない運命と笑えないくらい厳しい世界、私のいる場所の遠い地平線に立っている彼らが明日も元気でありますように。